機械式時計のリュウズはムーブメントを外部から操作できる唯一のパーツです。
ムーブメント駆動部に直接つながっているため、操作は慎重に行う必要があります。
リュウズ操作でできることは日付調整、時刻調整、ハック機能(秒針を止める)、ゼンマイの手動巻き上げなどができます。
またリューズを回し閉めることでケースに蓋をしムーブメントを完全にケースで覆い密封します。ちょうど潜水艦のハッチと同じ役割です。
このように時計の駆動に関わる調整や操作の大半はリューズで行うためリューズが唯一ユーザーとムーブメントを繋ぐ重責を担っています。
ムーブメントは多くの部品から構成される精密機械です。そんな多くの部品をリューズ「ひとつだけで」、動かすため相当な負荷がリューズと部品ひとつひとつに掛かります。
そのため時間合わせ等でリューズ操作の時、グルグルと力を込めて廻すことは絶対におすすめできません。
できるだけ一定のリズムで、優しく廻すことで部品の摩耗を防止できます。
リューズ操作の中で特に気を付けることは日付調整です。
ブランド毎に示されている【禁止時間帯】での操作は絶対におこなわないようにしてください。
この禁止時間帯は現在時刻では無く、調整する機械式時計が実際に針で指している時刻になります。
一般的なデイト(カレンダー)機能付き機械式時計では表示している時刻のデイトが変わる直前20時から、日付が変わった後、4時までが【禁止時間帯】です。
この禁止時間帯には日付ディスクに「日送り車」が噛み合う時間帯になります。
この日送り車、24時間かけ徐々にディスクに近づき、日付ディスクを動かします。日付(カレンダー)調整ではもうひとつの「早送り車」という歯車によって、日付けディスクを文字通り「早送り」するのです。
つまり禁止時間帯での日付調整では2つの歯車が日付ディスク上で同時に噛み合い、「早送り車」を動かすことで「日送り車」に無理な力が加わります。結果「日送り車」の歯先が破損し、故障につながるのです。
引用元:https://www.iwc.com
カレンダー操作は機械式時計ではムーブメントの構造上、どんなモデルでも必ず制限があります。
一部時間帯に関係なく操作できるモデルもありますが、説明書に記載されている【操作禁止時間帯】必ず読んで下さい。
時間帯はブランドによって異なるため注意が必要です。普段あまり読まない取扱説明書ですが、機械式時計を購入した時、目を通すことを忘れ無いようにしてください。
ケースの密閉度やパッキン材質が向上して時計の防水性は最新モデルほど良くなっています。
だからと言って防水が万全ということはありません。
特に注意したいことは日本人の場合「温泉」入浴です。お湯や温泉の成分がパッキンを劣化させる可能性が高くなります。
温泉の湯の成分には硫黄が含まれている泉源が多く、長く湯に浸かるとパッキンを劣化させルのです。
下の写真は風防に使われるパッキンです。
またゴムやプラスティックで、できているパッキンはお湯に弱くゴムのしなやかさを失う要因にもなり温泉は時計にとって良いことはありません。
また時計の防水機能は数値だけをそのまま受け止めるのは避けましょう。数値と用途を認識すべきです。
一般的な30m防水の時計を水深30mでダイビングに使うと時計が壊れます。防水性能はあくまでも理論上の数字、ダイバーズウォッチを代表する、ロレックスのサブマリーナがなぜ300m防水なのでしょう。
これは300mの深海で使用することを考えて造られた訳ではありません。
一般ダイバーがスキューバで潜る深さはおおよそ30mです。
普通に考えれば一般ダイバーが使用するなら3気圧防水の時計でも良い気がしますよね。しかし30mのダイビングで、300m防水の腕時計を装着する理由は防水性能が高い方が万が一の場合壊れにくいためです。
さまざまな機械製品や工業製品の耐久性能は想定される数値より高く、設計をしています。
これはダイバーズウォッチも同じです。
浅い海を潜るからといって、3気圧防水の時計でダイビングをしてはいけません。ダイビング専用の「ダイバーズウォッチ」を謳っている時計は通常100m以上の防水性能を持っているはずです。
ダイビングには耐久性に余裕がある、専用時計を使ってください。
僕が考える機械式時計にとって一番の大敵は「衝撃」です。
理由は機械式ムーブメントに多くの部品が使用されていることにあります。
一般的に時計の部品同士は歯車と歯車は強い力で噛み合っているわけではありません。
大きな衝撃があれば部品の噛み合わせが外れたり破損します。そのことでムーブメントが動作しなくなり止まります。
仮に動いていても、部品がずれたことでその箇所に無理がかかり、故障へとつながります。
また自動巻の巻き上げで時計を激しく振る事も時計には良くありません。
その他には手巻き式の場合における過度な力で巻き上げる行為もゼンマイを切れる原因になります。
リューズ操作で無理な力を入れて、止まるのに無理な力を入れて巻き切ってしまう故障も良く聞きます。当然クロノグラフのプッシュボタンも無理な力で押し込むことは避けてください。
しかし近い将来、衝撃による故障の心配が不要になる日が近いかも知れません。2019年にオメガから発表された「シーマスター アクアテラ ウルトラ・ライト」はこれまでの常識を覆すスポーツウォッチです。ゴルフでの使用を想定した重量僅か57グラムという機械式時計です。衝撃にも強いとされています。
近い将来衝撃なんて全く気にならない時計が出てくるかも知れませんね。
磁気による「磁気帯び」も機械式時計では注意が必要です。
一般的に機械式時計では磁気帯びが大敵と言われます。
これはムーブメントの部品が磁気を帯びることで、特にテンプと呼ばれるゼンマイの制御装置に影響を与えルのです。
時計内部の部品が磁気を帯びるとテンプが左右に動く「一定の動き」が乱れます。このことで精度が悪くなる要因となります。
時計の修理業者の作業内容では磁気帯びした時計の「磁気抜き」が多いといわれます。
正確な統計はありませんが、現代社会ではパソコンやスピーカー、生活家電にも磁気を発する物が多く存在するからでしょう。
生活のエレクトロニクス化によって各ブランドは時計の磁気対策が急務でした。結果最近は磁気に強い時計が多くリリースされています。
前述のオメガは耐磁性に優れた時計を多く出しています。
近い将来、時計に磁石を近づけても問題無い製品で溢れる日が来るかも知れません。
機械式時計を初めて購入する人はクオーツ時計よりも取扱に注意が必要と思っている人がほとんどです。
しかし取扱に関してはクオーツ時計も機械式時計もほとんど変わりません。
注意する点は機械式もクオーツのアナログ時計もリューズ操作だけ、少し注意が必要です。
機械式時計は説明書の取扱を守れば難しくはありません。
デリケートな印象を受けますが、取扱の基本さえ理解すればクオーツ時計以上に日常生活をエンジョイして送ることができます。
機械式時計が生まれて約400年、時計は多くの時計師たちの英知を凝縮させた芸術品です。機械式時計に「完成形」は無く今も時計師や技術者たちが日夜努力を重ね、改良を続けています。
僕はそんな時計の偉人たちが遺してきた機械式時計の動きをいつも楽しんでます。ぜひ皆さんも機械式時計を実際に手にして、針の動きを堪能してください。
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