機械式腕時計の調整は、知るべきことが多く、技術者のような知識を持った方でないと、正確に[調整]とはいえません。
それはどういった知識なのでしょうか。
まずは調整に必要な最低限の知識を解説していきます。
一般的な時計、平ひげ、スムーステンプの場合についてお話します。
技術者が、調整するのは主に前提:脱磁です。
と言えます。
一般に等時性というのは、ガリレオが発見した振り子の等時性のことを指しますが、時計技術者が使う等時性という言葉は、意味が異なります。
そもそも、振り子の等時性は、”紐の長さが一定の時”、振り子の死点からのフリ幅(今後、敢えて振り角と呼びます)によらず、周期は一定であるという性質のことです。
つまり、時計にもってこいの性質ですね。周期を丁度一秒にすれば、正確な時計となります。(これも難しい作業ですが、、)
ところが、振り子の等時性というのは、摩擦が極端に少なく、振り角が小さい(微小というべきか)時しか成り立たない性質なのです。
また、いざ、時計に組み込むと等時性は現れません。
そこで、時計師は緩急針という調整機構を使い、振り子の等時性が、できるだけ成り立つ、もしくはそれに近づけて、時計として機能させていきます。
緩急針については、後述します。
では、時計師にとって、等時性とはなにか。これを詳細に述べると、色んなことから説明が必要になるので、簡単にいいます。
等時性とは、振り角が大きい時と小さいときの歩度の振る舞いによって評価する、時計としての機能の良さを表します。
例えば、
振り角大:+5s/d
振り角小:+10s/d
のとき、「等時性がススミ(良い)」
振り角大:+5s/d
振り角小:+5s/d
のとき、「等時性が良い」
振り角大:+5s/d
振り角小:-10s/d
のとき、「等時性がオクレ」
というふうに、時計師は等時性という言葉を用います。
等時性がススミの場合も、等時性が良いと言ったりします。遅れの時計は最もいけないためです。
ただし、極端に等時性がススミの場合もいけません。
等時性とは振り角によって、歩度がどう振る舞うかを示すものと言えます。
そういった絶妙なラインで時計師は調整せねばなりません。
等時性の調整は主に緩急針で行いますが、素人では難しいです。
壊してしまうことがあるので、確かな知識をもった技術者にお願いしましょう。
※振り角について、振り角は時計の元気の良さを表しますが、大きければ大きいほどいいわけではありません。
時計によっては適正な値がある可能性があるので、振り角だけで、時計の具合の良し悪しを考えるのは素人さんでは難しいことなので、技術者に相談しましょう。
また、振り角は主ゼンマイの巻き上げ具合で変動します。
全巻で振り角は、最も大きく、ゼンマイがほどけるほど、振り角は小さくなるのが一般的です。
また普通は振り角が小さいと時計はオクレていきます。なぜおオクレるのか、説明するとかなり長くなりますので、省略しますが、時計師はゼンマイが解けてきても、歩度がオクレにならないようにしている(等時性を調整している)わけですね。
古い時計になると、ひげゼンマイが劣化し、ススミに陥りやすくなり、調整がかなり困難になります。
引用元:http://www.tokeizanmai.com/
緩急針というのは、図の様な棒二本のことをいい、その棒をヒゲ棒といいます。
緩急針の調整というのはヒゲ棒の間隔の調整ということになります。
さて、この間隔を変化させると、何が起きるのでしょうか。
その前に、その働きについて考えます。
例として、振り子を使いますが、ヒゲゼンマイでも同じことなので、簡単に振り子を用います。
そもそも振り子の周期はなにによって変わるか、それは振り子の重りを吊るす紐の長さです。
紐の長さを長くすれば、周期は長く、短ければ周期は短くなります。
これは時計で言えば、紐が長い場合、オクレの方へ、紐が短い場合、ススミの方へ、ということができます。
この周期をちょうど一秒にすれば、時計として機能を果たせるわけです。
しかしながら、この振り子の等時性は振り角(振幅)が小さいときのみ成り立つものです。
そこで時計師は考えました。長い周期をもつ振り子と短い周期をもつ振り子を組み合わせればいいのではと。それが緩急針だったのです。
先ほどの図でもわかるように、振幅は大きいとき(振り子が端の方にあるとき)は紐は緩急針に触れます。
その間、緩急針から重りまでが振り子の長さとなり、短い周期をもつ振り子として周期をもちます。
その後、振幅が小さいとき(振り子が死点付近のとき)、紐は緩急針は触れず、振り子は紐の端から重りまでの全長となり、長い周期の振り子として周期をもつことになります。
このように、一秒を”作った”わけですね。
時計の調整はまだまだ終わりません。
等時性の調整の他に、姿勢差の調整も行います。
姿勢差とは、時計の各姿勢(文字盤上、文字盤下、竜頭上、竜頭下、竜頭右、竜頭左)の差をできるだけ小さくすること。
これはどんな時計かによって、可能な範囲は変わってきます。
方法は先程の緩急針によるもの、天輪のバランス取り(片重り取り)、その他時計師の腕の見せ所です。
技術、知識をもった時計師に依頼してくだい。
日差とは、対象の時計と基準時計の時刻を合わせてから、24時間後の基準時計とのズレをいいます。
対して、歩度とは、専用の機械を用いて、瞬間的に日差が算出されます、その計算上の日差を歩度と呼びます。
時計師は歩度を調整し、日差を調べ、日差に応じて、歩度を調整し直します。
どのように合わせ込むか、ここも時計師の腕によるものが大きいと思います。
歩度を合わせるときは、緩急針を動かし、調整します。
ヒゲゼンマイは使用中に加えられた衝撃によって、変形をしてしまうことがあります。
その変形は精度に異常をもたらす可能性があります。それを修正することも時計師の大切な仕事となります。
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