時計のオーバーホールでは電池式のクオーツにも、ゼンマイを動力としている機械式時計でも油(潤滑油)を使用します。
時計師は、様々な油を使い分け、適切な箇所に適切な量を注油します。
今回は以下のことをご紹介します。
ここでは一般的な油と使用方法についてをご紹介します。
時計に使われる油には主なものとして、4種類あります。
油は重い軽いに分けられます。
<重いというのは、油の粘度の事をさし、軽い油はサラサラ、重い油はドロドロように粘り具合を示します。
重いものから順に
と分けられます。
一般的には下の写真のようなオイルカップに油を入れ分け、どのカップにどの油が入っているか分かるようにしておきます。
パーツの動きや役割によって様々な油が存在します。
パーツ同士がこすれ合うような専用の特殊グリスです。
9501はパーツが停止状態のときは半グリース状態で、動作中は液状に変化します。
長期に渡り潤滑性能を持続させることができる油です。
時計油D5は著しく摩耗を減少させる油で、高圧下でも優秀な潤滑性を維持できます。
時計油9010は耐久性が強い合成時計油で金属用の腕時計全般に使用されています。
時計油9415は機械式時計の脱進機用に開発されたオイルです。
パーツが静止している時は半グリース状態で動いている時は液状になります。
-20℃~80℃まで使用可能な油になります。
時計の油はメーカーや種類によって価格が代わります。
こんなに高額なものもあります。
時計は内部で歯車やテンプなど様々な部品が動いていますが、油はその部品の軸の摩擦を軽減する役割を持ちます。
しかし、軸にかかる摩擦を考慮し、適切な場所に、適切な油の量をささないと意味を持ちません。
修理師の知識と経験がとても大事になります。
またただ注油しても意味がありません。
また、汚れ、チリ、ゴミなどがないようにしなければ、注油しても時計の精度は出ません。
例えばテンプの耐震装置と呼ばれる箇所に、僅かなホコリが混入するだけで、振り角から歩度など大きな影響を与えます。時計はとてもデリケートに作られています。
基本的に油の粘度が重いものは、トルク(歯車を回転させる力)や摩擦が大きい箇所、粘度が軽いものはその逆となります。
しかし、それぞれの時計の個性に合わせて、注油することが最も良いのですが、それを時計師が把握するのも経験が必要と言われます。
たとえ、適切な油を使っていても、量によっても油の持ちが違いますから、オーバーホールの注油は丁寧な作業が求められます。
基本的な機械式時計の輪列について、例をご紹介します。
普通、輪列(りんれつ)というのはゼンマイの入っている香箱から、2番車、3番車、4番車、ガンギ車の順に噛み合います。
トルクの強さはだんだんと弱くなっていくため、香箱が最もトルクが強く、ガンギ車はトルクが弱いということになります。
そのため、油について考えると、香箱には重い油、ガンギ車には軽い油を使う、ということになりますね。
具体的には
といった具合になります。
ここで、なぜ最も重い油の、9501をトルクが強い香箱に、または2番車に使わないのか、という疑問を持つ人がいるかもしれません。
簡単に説明すると、輪列にとって、そもそも油は邪魔者です。力を伝える役目をもつ輪列にとって考えれば、油はない方がいいのです。
しかし、摩擦というのは経時により、摩耗を引き起こします。それを防ぐために、油を指します。
ですから、粘度が高く重い油を注油すれば良いというわけではない訳ですね。
油は上の写真のようなオイラーを使います。
針のような先端を必要注油箇所に注す事で表面張力の開放を行い、に油を広げる事ができます。
油は新鮮なうちはいいのですが、経年で劣化し、乾燥します。
すると、摩擦を生み、摩耗します。また、油をさしていないときよりも、乾燥した油の状態の方が、より摩耗すると言われています。
これが定期的な分解掃除(オーバーホール)が必要な理由の一つです。
以上が、時計の油に関することでした。
油の状態を時計屋さんに確認しに行くだけでも、部品の摩耗やパーツ交換の可能性は抑えられます。
シースルーバックの時計であれば、裏蓋を開けずにおおよその状態は見ることはできます。
また、測定器や防水試験でチェックすれば、早めに問題発見をできます。
大切にしたい時計であれば、また修理コストを抑えたいのならば、定期メンテナンスをおすすめします。
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