「時計王国」といえばスイスが有名です。
しかし、ドイツもそれに負けず劣らない時計製造の技術を持っています。
ブランド数も多く、時計メーカーとしての実力もスイス時計と比較して甲乙つけがたいものがあります。
製造ノウハウや技術面においても共通点が多く、原産表示が無ければ簡単に見分けはつきません。しかし歴史的に見ると最初に産業として発展したのは実はドイツ時計の方でした。
スイス時計誕生の理由はヨーロッパで起きた宗教対立によるものでした。
その時、多くのドイツ人時計師が国境を越えてスイスへ渡ります。
決してスイスで時計製造が「自然発生」したわけではありません。
16世紀ドイツの時計造りは南部ニュルンベルクとアウグスブルクが中心でした。
ニュルンベルクやアウグスブルクはヨーロッパの交通の要所として栄え、優秀な職人が集まる地域でもありました。
彼らは金属を加工する技術に優れていたことから錠前の製作で腕をふるっていました。その中のひとり、ニュルンベルクの若い錠前鍛冶「ピーター・ヘンライン」が世界最初のポケットウォッチを開発したと言われています。
それまでヨーロッパで多くあった、教会の時計は「重り」を動力源としていました。
それに対してピーター・ヘンラインが開発した時計はゼンマイを動力としており、持ち運びができる画期的な発明でした。
文献によるとポケットウォッチは1510年に発明されたとなっています。
現存するポケットウォッチは「ニュルンベルクの卵」と呼ばれ、16世紀に製作された物がドイツの国立博物館に現存します。
同じ頃フランスでも同様の時計が生まれた言われています。
どちらが先かはっきりしませんが、ゼンマイを使用した最初の時計はこのドイツのピーター・ヘンラインが製作したポケットウォッチの説が最も有力です。
近代に入ってからドイツ時計は注目されなくなります。
これは二度の世界大戦、その後の政治的な要因で製造活動が鈍ったことが理由です。
しかしベルリンの壁崩壊後、東西ドイツが統合されてからまずアランランゲ&ゾーネが国営化から民営化され、1990年に復活します。
それ以降ドイツ時計はスポットライトを浴び、A・ランゲ&ゾーネに続けとばかり、他ブランドも創設や復活をするようになるのです。
こうしてドイツ時計の世界市場へ向けた「攻勢」が始まりました。
冷戦時に東ドイツにて国営化されていた名門ブランドはベルリンの壁崩壊後に復活します。その後の発展は皆さん知っての通り、2020年時点でも同社はリシュモングループ傘下の主要ブランドとしてその高い技術力を世界へ発信中です。
2019年にはこれまでに無いモデル、同社自ら型破りという「オデュッセウス」を発表、世界を驚かせます。彼らが得意とするクラシックウォッチとは異なり、シャープでスポーティーな印象は同社の心象を高めます。
「オデュッセウス」はダークブルーの文字盤に通常より大きいスモールセコンドが特徴です。世界的に流行りであるスポーティーウォッチの模倣とも感じますが、外観の随所にA・ランゲ&ゾーネらしさを感じさせます。
中央部が盛り上がった形状、またドイツ人はメタルブレスレットに腕毛が絡むことを極端に嫌うことが有名です。
そのためブレスレットの角を丹念に落としますが、過度に丸くしないで微妙にエッジを効かせ、多面体のように仕上げています。
このことで、肌への密着感と腕毛を絡ませない工夫をしています。こんなところにも同社の技術力の高さが伺えます。
合理主義的と言われるドイツ工業製品ですが、A・ランゲ&ゾーネは必ずしも全てが合理的とは言えません。
例えば組み立てる際、同社の時計はケーシングした後に再び分解させます。
これはアランランゲ&ゾーネは時計の部品細部、特に「見えない部分」まで微調整を行うことを信条としています。
そのため製造に時間が掛かりますが、その分機械では測定できない調整も可能です。こんなこだわりがある事も多くのファンがいる理由なのでしょう。
1994年に復活後、25年以上続くロングセラーモデルA.ランゲ&ゾーネの永遠の定番ランゲ&ゾーネ A.LANGE&SOHNE ランゲ1はコチラから
1866年にドイツ南西部で創業したブランドです。デザインの特徴として、限りなくシンプルにしていることにあります。
シックな色の文字盤の時計が多く、知性的に見えるという意見もあります。
このブランドもクラシックウォッチのシリーズが多く、「マックスビル」は特にデザイン的にも優れていることで人気です。調和が取れたデザイン、無駄の無い機能、そして何よりムーブメントの精度の良さに定評があります。
1962年にマックスビルがデザインした名品を復刻したユンハンス JUNGHANS マックスビル ハンドワインドはコチラから
パイロットウォッチメーカーとして有名なブランドのジン。
元ドイツ空軍パイロットで教官でもあったヘルムート・ジン自身の経験に基づいた哲学のもとフランクフルトで1961年にブランドを興したのです。
創設時特殊時計専門会社としてビジネスを開始します。
1980年代は腕時計の他に、航空機向けの組込時計も製作しており、実際にボーイング社の727旅客機に採用されています。
その後エアロスペース分野での実績を重ねて、1985年にはドイツ人宇宙飛行士、ラインハルト・フラーのスペースミッションに個人携行品として同社の腕時計が宇宙空間へ持ち込まれました。
ジンは特殊時計で培った技術をダイバーズウォッチにも応用、空から宇宙空間や深海まで、さまざまな極限状態で使用できる腕時計を次々に発表しています。
1960年代にドイツ空軍に正式採用されたジンの定番モデルジン 103 .B.AUTOはコチラ
高級万年筆メーカーとして有名なモンブランが時計事業に進出したのは1997年です。
筆記具ブランドとして、確固たる地位を築いていた同社が時計事業に進出したのは1993年にリシュモングループ傘下になったことが大きな要因です。まずモンブランはリシュモンから機械式時計のノウハウを吸収します。
ドイツブランドでありながら、スイスのル・ロックルで工房を開設します。これにより「SWISS MADE」の付加価値を得ることに成功したのです。さらにモンブランは時計製造への攻勢を強めます。
ムーブメント専門会社「ミネルバ社」をリシュモンが2006年に買収、それ以降モンブランはミネルバからムーブメントの提供を受けるようになったのです。
ミネルバは150年以上の歴史があるスイスの名門ムーブメント専門会社でした。ミネルバは古典的なスイス時計のノウハウと最新鋭の製造設備を持つ会社です。
リシュモンとモンブランは共同で、同社を「ミネルバ高級時計研究所」と社名変更します。
それ以降ミネルバは高級モデル専用の動力機構を製造するための会社へと変わります。その後同社はリシュモン傘下のブランドへムーブメントを提供するようになります。
これによりモンブランはリシュモングループの中でも指折りのウォッチブランドに変貌するのです。
ミネルバ社を傘下に収め開発されたモンブランのニコラ リューセック クロノグラフはコチラから
1983年にミュンヘンで創業した機械式時計ブランドです。
ドイツ企業ですが、スイス製部品を使うブランドで、工房もスイスにあります。
創業者がクオーツショックで売れ残ったパーツやムーブメントを収集したことがブランド発祥の理由だそうです。
しかし単なる収集では終わらず、古典的なスイス時計造りを得意としています。
レギュレーターという古典的な文字盤を現代の時計に採用した最初のメーカーとしても有名です。
クラシカルデザインの定番モデルクロノスイス、シリウス レギュレーターはコチラ
1987年に創設された若い時計ブランドです。
しかし時計はクラシックウォッチを中心としたモデル構成になります。
ミュンヘンで生まれたこのブランドはクオリティを第一に掲げるブランドです。
ドイツが誇る飛行船「ツェッペリン号」から名付けられたこのブランドは機械式時計を中心に高品質でもコストパフォーマンスが高い時計を世に送り出しています。
ツェッペリン号は就航当時、性能とデザイン面でも高い評価を受けています。決して妥協しない時計造りに拘った時計ブランドです。
ツェッペリン号の第一号機「LZ1」の100周年を記念したシリーズ86701 Zeppelinはコチラ
1990年にグラスヒュッテで設立されたマニュファクチュールです。
創業者のローランド・シュヴェルトナーは時計製造に歴史があるグラスヒュッテで、かつてあったノモスブランドを復活させます。
シンプルで実用的な機械式時計で、デザインにも拘ったブランドです。
そのためシンプルな中にもビビットなカラーを加え男女問わず使える時計でもあります。
ノモスグラスヒュッテはデザインと実用性の二つを兼ね備えた優れた時計です。
ドイツ伝統の機械式時計に徹底的に拘り、ドイツらしい近代的なインダストリアルデザインを採用、復活させた時計造りはドイツ時計の未来を予感させてくれます。
ノモスの定番モデルノモス・タンジェントはコチラ
ドイツ時計はA・ランゲ&ゾーネを頂点にドイツ国内のブランドを牽引していることが特徴です。
実際A・ランゲ&ゾーネ出身者がドイツ国内のブランド立ち上げに関わったり、経営も行っています。
そして時計王国スイスに追いつけとばかりに優れた製品を次々にリリースしています。
しかしドイツ時計がスイス時計を敵視している訳ではありません。
歴史的に見てもドイツで発生した時計製造の技術が国境を越えてスイスへ渡り世界各国へ機械式時計を輸出しています。
またスイスに工房を構えているドイツブランドも多いです。さらにスイス時計の幹部がドイツ時計ブランドへ移籍するなど人材面での交流も多く見られます。
僕はドイツもスイスもそれぞれの長所を活かしユーザーの選択肢を増やす製造活動をして欲しいと考えます。その様々なメーカーの中からお気に入りのモデルを見つけて欲しいです。
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