機械式腕時計はご存知の通り動力にバッテリーを使わずゼンマイの巻き戻る力を利用して時を刻みます。そのためリューズを使って常にゼンマイの巻き上げ作業を行わなくてはならず、クォーツ腕時計に慣れた人は不便に感じる人もいるでしょうが逆にそこが機械式腕時計の魅力でもあります。
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この機械式腕時計の動力になるゼンマイですが、巻き取りをいっぱいに行ったらどのくらいの時間動き続けるのでしょうか。このゼンマイをいっぱいに巻き上げた状態から時計が止まってしまうまでの時間をパワーリザーブと呼び、次にゼンマイを巻き上げるまでの目安と考えられます。
自動巻き式腕時計か、手巻き式腕時計かでもゼンマイの巻き上る容量には違いがありますし、初期のアンティーク腕時計などでは30時間程度というものが多く見られました。これは一日に一度巻き止めまで巻き上げれば用途に足りるという考え方とゼンマイを薄く加工する技術が未発達であったことによるものといった事情があります。
近代まで基本的のこの考え方は変化がなく一般的なもので40時間程度が現在の手巻き式腕時計のパワーリザーブの目安といわれてきました。これが自動巻きになると事情が多少変わってきて振り子で自動的にゼンマイが巻き上がるためにトルクが強く、また週末は腕時計を外す人が多いことから高級腕時計には60時間以上のパワーリザーブが搭載されています。
一般的なレベルでも48~50時間程度のパワーリザーブを持っているものが自動巻きには多く、ほとんどの主流はこの程度のパワーリザーブになっていることが多いです。
1960年代からしばらくは機械式腕時計のパワーリザーブは48~50時間程度といった時代が続き、1980年代に入りオフィスワークの人口が増え始めるとパワーリザーブ不足といった使用者の要望が出始めます。
しかし現在は高級腕時計になると72時間以上のパワーリザーブを持ったものが多くなり、ブランドによっては8日間のロングパワーリザーブを持ったものもあります。
以下の機種は約192時間(8日)のパワーリザーブモデルです。
高級モデルのなかでは10日間以上のパワーリザーブが最強といわれ、昔に比べると飛躍的に能力は向上しています。時間に換算して約240時間まで動く機械式腕時計が登場していることに腕時計の技術の大きな進歩を見て取ることができます。
さらに現在は機械式腕時計の技術革新は留まるところを知らず、さらにゼンマイの駆動時間を延ばす努力が行われています。現在最も注目されている技術革新は単純に見えますが香箱を増やすことで、つまり従来までの機械式腕時計には香箱は一つだったのを2つにする事でゼンマイの数を増やしパワーリザーブを2倍にしようという考え方です。
この方式をツインバレルと呼び、ゼンマイの持続時間が延びることによって精度の安定にも繋がるためにツインバレルを採用するメリットは大きいです。しかし香箱を増やすということはその分時計のケースの限られたスペースに香箱を足さなくてはいけないために部品の小型化が要求されます。
ということは非常に高度な技術を時計製作技師は駆使しなくてはならないので、時計技師の真の実力が問われることになります。ですが近年このツインバレル方式を実現化しているメーカーが増えていますので、業界の中でも盛んになっています。これは各メーカーが技術力の高さを逆にアピールしているとも言えますので大変好ましい状況であるといえるでしょう。
このツインバレル化が主流になっていくことで薄型の機械式腕時計でもロングパワーリザーブが可能になり、最低80時間以上のパワーリザーブが機械式腕時計で標準になっていきます。2019年には高級腕時計のトップを担うランゲ・アンド・ゾーネが31日間パワーリザーブが可能な超ド級モデルを発表して話題をさらいました。実に744時間以上のパワーリザーブ能力で、これを上回る機械式腕時計は現在まで出現していません。いかに長時間ゼンマイの力を持続させることが技術的に難しいか良くわかります。
驚きの技術革新によって創世記の1日程度のパワーリザーブから現在の機械式腕時計のパワーリザーブの標準は72時間が標準値になっています。最高級腕時計の例外モデルは除くとして、一回ゼンマイをフルに巻き上げれば最低でも3日間は動き続ける腕時計が機械式腕時計の世界標準になっているのです。
今後も機械式腕時計のロングリザーブ化は進み、今後は5日間から7日間が主流で標準規格になっていくことは間違いないものといわれています。そのために各ブランドがパワーリザーブの残量がわかるようにパワーリザーブインジケーターを搭載し始めています。
パワーリザーブインジケーターは今まではゼンマイや歯車に与える負荷が大きくなるために敬遠されがちでしたが、現在の技術の高度化に伴い機械性能を損ねることなく搭載できるブランドが増えています。
このパワーリザーブインジケーターの標準搭載によって機械式腕時計はクォーツ式とはまた異なる利便性を手に入れることになり、実際の使用感覚ではクォーツ式と変わらない感覚で機械式腕時計を使える日が訪れることでしょう。
どんどん人間の仕事もIT化が進み運動を伴う仕事よりもデスクワークなど頭脳を使う仕事が増えていくこれからの時代、機械式腕時計にとってゼンマイの巻上げの手間が少なくなることは大きな進歩といえ、時代にマッチしたものになって行きます。
特にオフィスワークで自動巻きでも腕の振動が少ない人やとにかく持続性を腕時計の駆動時間能力に求める人にはこのロングパワーリザーブ・パワーリザーブインジケーターの標準化は歓迎するべき風潮です。
これから機械式腕時計を購入しようと考えている人にはデザインやブランドもそうですが一回の巻上げでどの位腕時計が動いてくれるのか、そういった観点で選んでみるのも良い方法ではないでしょうか。
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