機械式時計の振り角ってなに?大きい方と小さいほうどちらが精度が良いの?

カテゴリ:知識・雑学

振り角は機械式の心臓部、テンプの動く振り幅で左右に振り子状にテンプが振れる角度の事です。

この「振り角」は2000年初頭まで大きいほど良しとされていました。当時「振り角」が大きく振れるほど、時計の精度が高くなるとされていて、多くの時計師たちはそれを信じていたのです。

引用元:https://www.timezonewatchschool.com

振り角が大きいほど、精度は高くなる!しかし別の問題もある

しかし振り角が大きくなると別の問題点が生じます。確かに振り角が大きなる事で、外乱(外部からのショック)に強くなり、時計の精度が高くなるのです。

しかし振り幅が大きくなり、「振り当たり」によって精度が悪くなるトラブルも生じます。

そのため2010年頃より時計メーカーはそれまで振り角を高くする設計を変更、現行最新ムーブメントは280度から300度までに抑える傾向になっています。これはどういう事なのでしょう?

振り角はメーカーの哲学が現れる?

「振り当たり」とはムーブメント内部の、テンプ振り幅が大きくなりその事で振り石がアンクル反対側に当たり、反発力によって時計が異常な進みをする事です。

この症状を抑えるためには当然、「振り角」を抑えることが最善の解決策です。

ただ振り角を抑えると前述にあったようなムーブメントの精度低下が懸念されます。そのため設計段階で「振り角」を何度までに設計するかは、ブランドの哲学が端的に表れる箇所です。

例を挙げると振り角を大きくするブランドの代表としては「ブライトリング」、「IWC」がかつて、330度から340度位まで振り角を与えていました。前述のように「振り角」が大きいと、外乱の影響を受けにくくなり、またパワーリザーブ残量が少なくなっても高い振り角を保つことができます。

それとは対照的にロレックスは振り当たりを起こさない抑えた「振り角」で設計、ムーブメントを製造し続けてきました。

彼らは独自の考えのもと「振り角」を280度以内に抑えるような設計を頑なに続けていたのです。この280度は時計職人の感覚だと、絶対に「振り当たり」を起こさない角度になるそうです。

2005年以前までは、多くのブランドが機械式ムーブメントの精度向上を探究していた時期です。ブライトリングほどでは無いにしろ、300度を優に超える振り幅でムーブメントを設計しているブランドが多い時期でした。そんな中なぜ、ロレックスは他社より少ない振り角でムーブメントの設計と製造を行なっていたのでしょう?

これは私の想像ですが、ロレックスは常に耐久性を最優先に時計造りをしてきたからと、考えています。部品数の削減やムーブメント振動数も極力抑える、彼らの哲学は2020年の今も引き継がれています。耐久性の追求こそが顧客の満足感へつながると、ロレックスは信じているのでしょう。

相反する事象を可能にする、技術力の向上

しかし、2005年を過ぎる頃から「ロングパワーリザーブ」が各社から続々と登場してきた事で、ロレックス以外のメーカーでも振り角を抑えた設計が増加します。

これまで振り角を大きくする理由のひとつにゼンマイがほどけてきても、振り角が大きいほど、最後まで高い「振り角」を維持できる事が大きな理由でした。

しかしロングパワーリザーブによって「振り幅の維持」が可能になったのです。

ロングリザーブ化が振り角設計に与えた影響は大きく、これ以降前述のブライトリングも振り角は280度から300度に抑えられて行きます。

ロングパワーリザーブ化の大きな理由は香箱を複数設ける「マルチバレル化」です。これまでは簡単では無かった、香箱を増やす設計もケース空間の有効活用で多くのブランドで採用するようになります。

マルチバレル以外にも、主ゼンマイの改良も進み、40時間が限界であった腕時計のパワーリザーブは2020年リリースの新作では「70時間以上」が主流になっています。

各ブランドのテンプ振り角は抑えられ、結果的にロレックスムーブメントの設計哲学の正しさが、証明されることとなりました。

香箱を2つもつインバレルの記事も紹介しているので、合わせて読んでみてくだい。

振り角を抑える流れは、ジュエリーブランドから?

このようにロングパワーリザーブの出現によって、振り角が抑えられるようになりました。

しかし、振り角を抑えるようになった流れは自然発生的な物ではありません。ジュエリーブランドの時計市場への進出が少なからず影響を与えていると僕は考えます。

時計専業ブランドは往々にして16世紀から続く伝統的な製造技法に拘るのが常です。それに対し、ジュエリーブランドの時計市場への進出はこれまでの時計業界の常識に囚われない、斬新なアイディアで優れた時計を世に送り出してきたのです。

ブルガリの「オクト」やピアジェの「ALTIPLANO」は薄型時計の先駆者としてこれまでの機械式時計の常識を覆す「薄い時計」を世に送り出してきました。

常識を覆すのはデザイン同様にムーブメントの技術力向上にも彼らは尽力しています。当然ロングパワーリザーブも積極的に採用しています。

FPジュルヌのフランソワ・ポール・ジュルヌはメディアのインタビューで「テンプの振り角は280度が上限だ。」と答えています。彼の言う通りFPジュルヌのムーブメントの振り角は280度までで、「振り当たり」を防ぐ設計が特徴です。

現実に2000年を過ぎる頃から、ピアジェを初めてとするジュエリーブランドの時計マーケットに与える影響力は年々大きくなり、無視できない存在になってきています。時計専業ブランドはジュエリーブランドが成功を収めてきた、ラグスポモデルをより充実させ切磋琢磨し、彼らの新技術も積極的に取り入れてきました。

専業ブランドのロレックス は、振り角を抑えた設計で先行していました。しかし、他の専業ブランドに影響を与えたのは間違いなく、ジュエリーブランドの躍進、「専業ブランドのお尻に火を付けた!」と考えるのは、大袈裟でしょうか?

まとめ

各ブランドのテンプ振り角の振り幅は、2010年を過ぎてから300度以下に抑えられる傾向は顕著になっています。

しかしムーブメントのマニュファクチュール化に見られるように高精度の探究は今後も続く筈です。

専門誌の意見では振り当たりを起こす「ギリギリの線」を見極め、振り角をもう少し上げる意見もあります。しかし僕は耐久性を考えて、振り角を上げない、と考えています。耐久性が高い時計はユーザーが求める時計です。このユーザー目線の時計造りこそ、時計ブランドが目指すべきところとなのです。テンプ振り角の動向は今後も注目ですね。

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