機械式時計は不便なのになぜ絶滅しないのか?歴史と共に詳しく説明します。

カテゴリ:知識・雑学

腕時計はその長い歴史のなかで幾度かの革命を経て進化し、特に腕時計史上最大の革命といわれたクォーツショックを境に大量生産と高品質の腕時計が低価格で大量に出回るようになり、一時期機械式腕時計は廃業の危機に追い込まれていました。

不便なのに現在も愛好者が多い機械式時計の魅力

セイコーアンティーク時計の修理

しかし、近年になり再び機械式腕時計は注目を浴びることになり、現在は何度目かの隆盛期を迎えようとしています。

機械式時計は、クォーツ式腕時計(電池式)に比べて不便で精度も低い機械式腕時計はなぜ絶滅の危機を乗り越え、現在の人気を得ているのでしょうか。

機械式腕時計はなぜ絶滅しないのか

色々な時計

合理的に物事を考えた場合に精度もクォーツに比べると低く、構造は繊細で複雑、さらにはゼンマイを巻き上げないと止まってしまう機械式腕時計は単純に不便なものでしかありません。

しかし一度絶滅の危機にあった機械式腕時計がなぜ今日のように復活を遂げたのかに至る一番大きな理由は、機械式腕時計は単なる時間を知る道具ではなく、工芸品や美術品のように、極められたものにしか持ち得ない所有する喜びと一生使い続けるに値する耐久性と価値が存在することにあります。

単に時間を知るだけならクォーツ式腕時計やスマートウォッチなどのほうが正確でしかも低価格で手に入ります。機能しなくなれば新しいものに買い換えればよいわけです。

しかし機械式腕時計は精密で高度な技術を持って作られた部品が機能しあって組み合わされ、圧倒的に美しい機能美を持った工芸品のような魅力があり、そこには単に時間を知るだけではなく一生の間使い続けることができる本物としての価値と魅力が存在しています。

※上の写真は時計に刻まれるエングレービング(彫金)になります。

また機械式腕時計には人の一生どころか親・子・孫と何代にも渡って伝えていくだけの堅牢性と腕時計技士の修理技術、そして普遍的な完成度があります。

クォーツ式腕時計は性能は高いですが一生使い込めるまでの耐久度はとても望むことはできません・スマートウォッチも同様です。

しかし機械式腕時計には確かに不便で価格も高額ですがそれに値するだけの耐久性と古くからの歴史が作り上げた所有する喜びと価値観があります。

人が装飾品として身に着けるものの中で機能美と所有する喜びをこれほど感じさせてくれるのは他に見当たらないでしょう。

機械式腕時計の衰退から復興

はめ込み式の時計の裏蓋を開ける

※上の写真はクォーツ時計の中身です。

時を知る道具としての腕時計はクォーツ式腕時計が世の中に誕生してから非常に身近なものになり簡単に量産が利き、精度も高くしかも低価格で手に入るようになったため、現在では腕時計のほとんどがクォーツ式が主流になっています。

さらには腕時計の機能のみではなく、端末としての機能も搭載し多くの用途に対応するようになったスマートウォッチが近年登場し、スマートフォンの普及に伴いものすごいスピードで普及しています。

これだけ便利な道具が普及して活用する人が増えると、特に機械式腕時計などは不便で精度も低い実用性に乏しいものになり、世の中から淘汰されても決しておかしくない道具に位置していました。

実際、過去にクォーツショックが起こってからの数十年は機械式腕時計は絶滅の危機にあり、廃業した機械式腕時計の会社が急増しました。

セイコーアストロン53sq 初めての電池式時計クォーツ

※上の写真は世界で初めてのクォーツ時計セイコーのアストロン53sqです。

大手のマニュファクチュール(自社で一貫して製造するメーカー)を製造する会社も経営危機に陥り、壊滅か存続かギリギリの状態が続きます。

ところが十数年前からクォーツ全盛の時代に再び機械式腕時計が脚光を浴び始め、腕時計愛好家が再び機械式腕時計を購入するようになり、機械式腕時計は現在何度目かの隆盛期を迎えようとしています。

ではなぜ機械式腕時計は絶滅の危機を免れ、再び復興への道を歩みだしたのでしょうか。

復活の兆しは1980年代後半にあり、当時は絶対的なクォーツ全盛の時代、中には機械式腕時計の存在を知らない人までいました。

しかしそのころから海外の超高級腕時計ブランドが世界の各地でプレスツアーを行うようになり、そこでトゥールビヨンやクロノマスターなど芸術的な美しさと機械が融合された新モデルを見ることができ、ごく一部の存在であった時計マニアの間から再び機械式腕時計の価値が見直されるようになったのです。

その波は1990年代以降確かなものになり、2000年以降にいたっては各ブランドが新機種を次々と発表し再びメディアも機械式腕時計に注目し始めます。

この頃から腕時計は2極化の方向へ進みだし、クォーツ式のように使いつぶして買い換えていく腕時計と、機械や工芸品としての美しさに注目し、修理しながら一生使っていく機械式腕時計に分かれて発展をし、現在の状況があるわけです。

このように機械式腕時計が便利なものではなく構造的には旧式でしかも高価なのに絶滅しないで人々に愛好されている理由は、単純に便利であるとか性能が高いとか価格的問題が本物を表すのでは無く、単なる機械以上の価値が腕時計に有ることを知るものが腕時計を身に着け、一生愛用できる財産(思いも含め)として腕時計を受け継いでいく、値段を超えた魅力が腕時計にはあるということです。

そういった人たちが近年になって物があふれているこの時代に本物を愛用する喜びを再発見していることが現在の機械式腕時計の隆盛につながっています。

これからの機械式腕時計

ピアジェの最薄時計altiplano

これからの腕時計は2極化がどんどん進み、スマートウォッチのように低価格で腕時計以外の付加価値が搭載され、メンテナンスを施して使い続けるのではなく、壊れたら使い捨てて買い換えていく腕時計たち、もう一つは美術品や工芸品としての価値を持ち、複雑な機械構造と普遍的なデザインを併せ持ちながらも一生の財産となる今までのイメージから2歩も3歩も進んだ、新しい時代の機械式腕時計を趣味として愛する人たちへ向けた腕時計に分かれれいくことでしょう。

HYTの時計

この2極化で単に日用品として腕時計を身に着けるのか、趣味品として物自体の価値も併せ持った腕時計を身に着けるのかと用途が完全に分かれていくことになり、中には両方楽しむ人たちも出現してくることでしょう。

そういった意味では機械式腕時計の復活は腕時計の可能性をさらに広げる要因になり、それぞれの腕時計が独自の魅力を持って愛用されていくことになるでしょう。

特に長い歴史に裏付けされた機械式腕時計の世界は今後さらに技術的進歩を遂げ、さらに複雑に、さらに精巧に、さらに美しく変化していくことになります。

そして自分自身の気に入った愛用の一本を一生かけて使用していき、さらには自分の子供・孫の世代にも受け継がれていく一家の宝になっていく逸品がこれからも生み出されていくことでしょう。

こうした長い時の流れに耐えうる性能を持っているのが機械式腕時計にしかない魅力です。

確かに機械式腕時計は高価な品物ではありますが、良いムーブメント(時計の中身)を装備した時計は、それに見合っただけの技術、構造、美しさがあり、長い時間に耐え抜いていく耐久性を誇っています。

また技術者の巧みの技によって財産としての価値を持ち、代々受け継いでいけるところが腕時計愛好者を虜にする最大の理由ではないでしょうか。

この現代では道具や機械は便利なもので溢れかえっており、一体どれを選んだらよいのか分からない人も数多くいるでしょう。さらに大量生産の品物を使い捨てて買い換えている人も多いことでしょう。

しかし腕時計には言葉や理屈では片付けられない普遍的な魅力があり、機械式腕時計はまさにその魅力を持った数少ない道具であることは間違いないです。

最新式の便利な腕時計も魅力的ですが、一生の友となる魅力を持った機械式腕時計を一本、所有してみるもの良い事なのではないでしょうか。

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